2016年6月30日木曜日

【ラグビー】モラトリアムの中で ~日本対スコットランド戦の個人的雑感~



「ラグビーファン」歴もはや10年となる。なのだが、この日のスタジアムの雰囲気はこれまで一度たりとも体感したことのないものだった。
スタジアムはずっと「ざわつき」で覆われていた。それは明るいお祭り騒ぎの延長線上にあるも。ラグビー界が巻き起こした、新しいムーブメントを思う存分楽しみたい。そんな人々の思いが、自覚せぬかたちで声や音として表れてしまったのかもしれない。

3万4千人もの観客が詰め掛けた、ワールドカップのリベンジマッチ。16-21というスコアは何ら恥ずべきものではない。着実に強化のステップを歩み、退化しないための歯止めもしっかり行われている。しかし、この試合を通して見えたプロセスや結果を考えると、不思議な物足りなさが残ってしまうのも事実だった。



前半をリードしたのは日本だった。19分に自陣から華麗なパス回しで一気にゲイン。一旦は相手ディフェンスに阻まれたが、再び大きく逆サイドに展開して最後はフリーで走りこんだ茂野がトライ。エディジャパン、そしてサンウルブスで築いてきた技術が集結された一本だった。

しかし、チームとしての不安定さも前半から散見された。ハンドリングやセットプレー、ブレイクダウンでの小さなミス。ペナルティを奪われると、敵はすぐさまゴールポストを指差した。何とか13-9で折り返したものの、後半に向けての立て直しは必至だったのも確かだ。

その不安は相手の効果的な選手交代で一層表面化する。後半開始早々からフロントローを総入れ替えし、49分にはスクラムハーフのレイドローを投入。この2つがターニングポイントになってしまった。


日本ラグビー界における新たなトラウマことレイドローさん


一旦は持ち直したかに見えた守備やセットプレーに規律が無くなり、押し込まれる時間がより長くなる。そして、些細なミスからピンチを招き、焦りの果てに反則を犯してしまった。攻撃も時折素早いパス回しは見られたが、トライを奪うことはできず。そして、後半決められた4本のペナルティゴールは、日本代表のモチベーションを落とすのに十分すぎた。
今回の敗戦で露呈した課題――例えば集中力の欠如やセットプレーの苦戦など――は、現在サンウルブスで課題とされている部分と同じだった。来年のサンウルブスだけでなく、秋の欧州遠征に向けても直さなければならない部分は多い。

とは言え、スコアだけ見れば5点差の敗戦である。ホームの利もあったとは言え、これまでコテンパンにやられ続けた歴史と比べるならば、大健闘と言える結果だろう。日本側もけが人が多い中で、小瀧、金、茂野らが台頭した点は大いに喜べる話だ。
しかし、この5点差に少なくない失望をしている僕自身もいる。それは昨年のワールドカップ時に感じたものと同じ、「もっとできるはずなのに、力を出し切れなかった」というものである。




2016年春の日本代表は仮初めの姿だった。次期ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフとの契約は現所属先との都合もあり、9月から。大物指揮官との獲得と引き換えに、4月から6月にかけての代表強化シリーズには空白期間が生まれてしまった。
4月からの対アジアでは20歳以下日本代表監督の中竹氏が、そして6月の3連戦はサンウルブスのマーク・ハメット氏が代行として指揮をすることになった。4月と6月の断絶、そして選手をチョイスする側と試合を戦う側の断絶。分業制はやはり歪な時間を生み出してしまった。

一見すると、ワールドカップ以降の日本ラグビー界には濃密な時間が流れているように見える。スーパーラグビーへの参戦、強豪国との腕比べ、そして、この時間を楽しみに集った多くのラグビーファンたち……。これらの動きを「停滞」と評するには無理がある。

しかし、濃密である一方で「大味」な印象も見え隠れしているのだ。スケジュールは埋め込まれているけれど、準備不足で力を出し切れない。ないしは、資源を揃えることができない。そのジレンマと闘い続けた日々だった。
これを一言で表せば、日本ラグビー界は約9ヶ月間「モラトリアム」の状態にあったということである。やりたいことは沢山あるし、できそうな気がしているのだけれど、何かあと一押しが足りない。そんなループをひたすら繰り返していた。

7月15日のサンウルブス対シャークス戦をもって、このモラトリアムは一旦終了する(もちろん、リオで奮闘する7人制日本代表は忘れてはいけないが!)。そして、つかの間の休息の後、トップリーグが8月末に開幕する。慌ただしく、ラグビーシーズンがまた始まる。
その新たな節目を迎えた時、あの「モラトリアム」で得たものや得られなかったものに思いを寄せるシーンが来るのだろうか。

ざわつきが止まないスタジアムの中で、僕はそんなことを考えていた

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秋のラグビーシーズンの前に、予習として拙著はいかがでしょうか?

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